【交通事故損害賠償の知識】示談までの生活費に困ったら [交通事故]

交通事故が多発する時期ですので、運悪く交通事故被害者になってしまうと、最初に経験する不安が保険会社です。

本日は保険会社の担当者が治療費の立替払いを保留したり、休業損害の内払を保留したりすることで被害者の生活費などに支障が出てきた場合のお話です。


追突事故等でムチ打ち症になり後遺障害が認定されるような場合、少なくとも事故受傷から9ヶ月程度は経過しているはずです。

頚椎捻挫などでの後遺障害の申請は、事故受傷から6ヶ月が経過してからでないと申請できません。


後遺障害診断書の作成、自賠責保険への書類の送付、自賠責調査事務所での審査などを考えると、被害者請求による自賠責保険からの保険金の振り込みまで、最低でも事故から9ヶ月以上経過している事になります。



被害者の障害の様態によっては、仕事が通常通りできないため給与や収入が減少している場合もあります。

保険会社からの休業損害の支払が後遺障害診断書を作成した時点、いわゆる症状固定までキチンと支払われていても、その後は支払われませんので、審査に時間が掛かっているような場合は生活費に困る被害者さんもいます。



又、加害者が自賠責保険にしか加入しておらず、被害者も運悪く自身の自動車保険に人身傷害特約などを付加していない場合で、加害者に治療費や休業損害を請求しても無視され治療費の支払や毎日の生活費に困ることもあります。



7月30日にお話をした、加害者から早急に損害賠償の支払を受けたいと思う時に被害者が利用することの出来る「仮渡金・内払」は、あくまでも事故当初に支払う治療費のためでした。


事故からかなりの時間が経過して、おおよその損害額も計算できる段階で生活に困った場合は、法的な措置である「仮処分」を利用することも出来ます。


「仮処分」とは、裁判所を利用して加害者に対し治療費や生活費の仮払いをさせるためのものです。



正確には、被害者から裁判所に対して損害賠償金の仮払いを求める仮処分命令を申し立てる方法になります。



分かりやすくいうと「交通事故の賠償問題が最終的に解決するまでの間、加害者はとりあえず被害者に対して治療費や最低限生活出来る費用を支払いなさい」と裁判所が加害者に対して命令をする事です。



この裁判所の命令により強制執行(加害者の動産を差し押さえ競売し現金化)する事が出来ますので、かなりの威力があります。



ただ、被害者が裁判所に仮処分命令を出してもらうには以下に該当する必要があります。



1.被害者が加害者に対して、損害賠償の請求訴訟を提起して勝訴する見込みがあること。



2.被害者が現在治療費や生活費に困窮していること。



1の「勝訴する見込みがあること」というのは、必ず訴訟を提起しなくてはならないということではなく、すでに仮処分命令する金額はほぼ確定しているという事です。


例えば、すでに通院をした事により得られる通院慰謝料の金額は、実通院日数により明らかなことから、その金額であれば今後必ず加害者は支払わなくてはなりませんので、その範囲内の金額での仮処分命令は可能という事です。



支払う必要があるかないかの争いになる金額に関しては、仮処分命令は出せませんので、「損害賠償の請求訴訟を提起して勝訴する見込み」という言い方になっています。


2の「被害者が現在治療費や生活費に困窮していること」とありますが、どのような状況を生活に困窮しているかという問題もあります。


単に被害者が生活に困窮をしていると言っているだけでは認められず、被害者が生活に困窮していることを証拠によって証明しなくてはなりません。


又、仮処分命令で請求できるのは「損害賠償の請求訴訟を提起して勝訴する見込み」があったとしても、逸失利益までは及ばず、治療費及び毎月の最低生活費が主流になります。


裁判所に仮処分命令の申請をする方法ですが、一般に法律の知識のほとんどない方には無理ですので、弁護士に依頼する事になります。


申請の際の色々な証拠とその立証をしなくてはなりませんし、手続きも相当な法律知識が必要になります。


「えっ!弁護士に依頼する?」

ここで矛盾を感じた方もいらっしゃるのではないですか。

治療費が払えず生活に困窮しているから裁判所に仮処分命令の申請をするのに、弁護士を依頼するお金などないはずだろうという矛盾です。


そのような時のために、日本司法支援センター(法テラス)があります。


仮処分命令の要件として、「損害賠償の請求訴訟を提起して勝訴する見込み」とありますので、その要件を満たしていれば最終的に解決をした時点で弁護士費用や裁判になってしまった場合の裁判費用は回収が可能ですので、その費用を立て替えてくれます。



この仮処分命令による請求金額を多くするために大きく影響するのは何だとお思いになりますか?


通院日数?

休業損害?



実は、被害者に後遺障害が認定されているか否かです。



後遺障害等級によりすでに後遺障害慰謝料額は確定していますし、事故前年度の源泉徴収票があれば逸失利益もおおよそ確定しますので、その金額の範囲内であれば確実に仮処分命令が出せます。



地方裁判所支払基準の赤い本における後遺障害14級の慰謝料は110万円ですので、14級が認定されていれば確実に110万円までは仮処分命令が出来ると考えても良いのではと思います。



ムチ打ちでの後遺障害等級は14級もしくは12級ですので、110万円もしくは290万円程度の仮処分命令は可能になると考えられます。



被害者請求をしていた場合で自賠責保険から直接後遺障害慰謝料が振り込まれていても、自賠責保険支払い基準と地方裁判所支払い基準とでは大きな金額差がありますので、その差額の部分で仮処分命令を利用する事が出来ます。



★ 後遺障害慰謝料


   自賠責保険    地裁基準


14級  32万円     110万円


12級  92万円     290万円


※ 通常自賠責保険の後遺障害慰謝料の金額は一定額の逸失利益を含んだ
  金額が表示されていますので、勘違いされる方が多いようです。
  (14級75万円・12級224万円)



世の中には知らないと損をする情報が沢山あります。



知らないことで生活に困窮し保険会社から兵糧攻めに合い、泣く泣く示談をしてしまう、いわゆる「泣き寝入り」にご注意下さい。




タグ:交通事故
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ためいき

こんにちは。

今回の仮処分命令に関する記事についてですが、仮処分命令の場合は、債権者に対して担保の提供を裁判所は要求するのが普通ですが、交通事故被害者はたいてい困窮している場合が多く、そのため担保の提供ができないため、仮処分命令を出すことに裁判所は慎重だと聞いております。つまり、訴訟上は疎明でいいはずなのに、くりおねさんが書いているように立証に近いものを裁判所が要求している現実がたしかにありますね。だから、素人にはちょっと敷居が高いかなあと思います。記事の前半についてはまったく同感です。

ところで、記事の後半の「後遺障害等級によりすでに後遺障害慰謝料額は確定していますし、事故前年度の源泉徴収票があれば逸失利益もおおよそ確定しますので、その金額の範囲内であれば確実に仮処分命令が出せます」とありましたが、相手任意保険会社が自賠責の認定した後遺障害等級自体を争っている場合はどうなんでしょうか。あまりあることではないと思いますが、ちょっと気になりました。


by ためいき (2011-10-24 06:49) 

ためいき

追記です。

くりおねさんの交通事故に関する記事は、ぼくが知っている範囲では他の同種のプログやホームページの内容と比較して、トップクラスの内容を持ったものだと感心しています。かつて損保業界の尖兵として働いていた経験があり、そのためこの業界の舞台裏を多少とも知っていると自負しているぼくですが、くりおねさんの記事には時折そんなぼくの知らないことや、知っていることでもその背景にまで言及されているものがあり、大変勉強になります。くりおねさんの経歴を拝見しましたものの、損保業界の接点が伺えないにもかかわらずです。

交通事故被害者は正確な情報を求めています。そのため、大手の掲示板で多くの質問が寄せられている現実があるのですが、いわゆる水際作戦なのでしょう、そういうところは損保寄りの常連回答者の巣窟のような有様になっていて、損保に有利な方向に誘導されている悲しき現実がありますね。

 ぼくが比較的得意とするのは後遺障害や休車損なのですが、そういった記事も含めて、交通事故被害者側の視点に立った今後の記事出しに注目しています。それと、お忙しいのかもしれませんが、たまにコメントに応じていただけるとうれしいなあと思ったりしています。
by ためいき (2011-10-30 11:19) 

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