那覇地裁 70代女性への生活保護支給命令 国に殺される? [裁判]

 8月17日、那覇地裁で、生活保護申請を却下された那覇市内在住の70代の女性が、却下決定の取り消しと生活保護受給を求めて那覇市に起こした義務付け訴訟で、裁判所は女性の請求を認め、義務付け命令を出した。
 
女性は年金を受給していたが、この年金を担保に貸付けを受ける制度を利用しており、年金受給者の生活保護利用は原則として認められていなかったため、市が貸付制度の利用をやめるよう指導していたが従わなかったので生活保護を廃止されていた。
 
判決では、「年金受給者の生活保護利用は原則認められないものの、生活が窮迫した状況にあるなど貸付制度の利用が社会通念上やむを得ない場合は、例外的に利用が認められること」に基づいて、女性の生活状況が生きる上で最低限必要な食事にも事欠く状況であり、窮迫していて利用も社会通念上やむを得ないとして、市に裁量権の逸脱・濫用があると判断し、却下決定は違法であるとした。
 
 年金担保貸付の利用を理由とした行政側の却下決定の取り消しを認めた判決は初。
 
 また、女性は2009年12月に却下決定の取り消し・生活保護再開を求めた仮の義務付け訴訟を起こしており、那覇地裁で勝訴した。
 仮の義務付けが認められたのは、2009年12月時点で全国初だった。

なぜ貸付制度を利用できないのか?

 生活保護受給者が年金担保貸付制度を利用できない根拠は、生活保護法4条にある。
 4条には、生活保護の受給要件として、「受給者は資産を最低限度の生活の維持のために活用しなくてはならない」と定められている。
 
 年金は老後の基礎的な生活費として支給されるものだが、これを担保に貸付を受けることは、本来生活のために活用できる資産があるにも関わらず、活用せずに生活保護を受けていることになるというのが、利用禁止の理由になっている。
   
 生活保護が税金を財源にしていることからしても、「財産隠し」のような貸付制度利用が禁止されるのは納得できる。
 ただ、今回の原告である女性は、年金を借金返済に回すと手元に数千円しか残らず、ライフラインが止められるおそれがあり、また糖尿病を患っていたので、治療を受けられないと死に至る可能性もあった。

 女性が70代という高齢であることからも、今回のケースでは、生活保護受給以外に女性を救う手段がなかったといえよう。

 今回のケースは特殊な事例だろうか。そうは思えない。
 
 もちろん、自分で老後の生活設計をきちんと立てておくべきであるし、設計されている高齢者も多いだろう。
 しかし、「あるべき」ことが必ずしも「ある」ものだとは限らない。

 また、ライフスタイルが多様化する中、年金を受給する年齢になっても働く方も大勢おられると思う。
 
 しかし地方では、生活が困窮状況にある高齢者は多い。若年者と異なり、働き口を探そうとしても見つからず、そもそも体力的に労働できない場合も多い。

 そのような高齢者が頼りにするのは公的保護制度になる。

 ところが貸付制度の利用が原則禁止されている現在の状況では、今回の原告の女性のように、返済できない借金を抱え、年金以外に担保がない場合、借金返済をしたいが生活保護を受けられなくなったら困るというジレンマを抱えることになる。
 
 例外事例が認められたとは言え、あくまで判決が個別ケースを救済したに過ぎず、制度としてカバーされたわけではない。
 
 今後、地方在住高齢者へのセーフティネットとして、生活設計の知識を身につけてもらう講座を開くなど公的保護に頼り切らないための予防策と、生活困窮者を救う制度の充実が求められる。


タグ:生活保護
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