裁判では、真実が勝つとは限らない [裁判]

茨城県で大工の男性(当時62歳)が1967年に殺害された「布川事件」で、犯人であるとして無期懲役が確定していた桜井昌司さん(64歳)と杉山卓男さん(64歳)が、再審の水戸地裁土浦支部において無罪判決を受け、この判決は今月8日、確定しました。布川事件.jpg
 1996年に仮釈放されるまで収監され続け、その後も犯罪を犯した者と扱われてきた二人の、冤罪が晴らされた瞬間です。

「それでもボクはやってない」という痴漢冤罪をテーマにした映画が話題になったり、1990年に栃木県で女児が殺害された足利事件で犯人とされた菅谷さんが、DNA鑑定が覆って再審で無罪となるなど、最近でも冤罪が話題になることは多いんですねぇ。
 公正な判断をすべき裁判所で、なぜ、真実と乖離した判決が出るのかと、疑問に思う人もいるでしょう。
 これは、裁判所が判断の前提とする「事実」が、「真実」とは別物であることから生じる問題です。
真実そのものを、法廷に持ってくることはできません。
訴訟の当事者(検察官、被告人)は、様々な証拠を集め、何が真実であるのかを法廷で主張します。

それをもとに、裁判官が「真実」のようだと考えて認定するのが「事実」とされます。

つまり、いくら真犯人でなくても、足利事件の古いDNA判定のように自分に不利な証拠があれば、真犯人であるとして有罪にされる可能性があるんです。

これは刑事訴訟に限りません。
民事訴訟でも同じことが言えます。
例えば、どんなに「借りたお金は返す」と口約束をしたとしても、証拠に残っていなければ、裁判で「事実」として認められることは難しい。
 このように考えてみると、将来訴訟になりそうだと考えたときは、自分に有利な証拠を集め、残していくという作業が必要になります。

また、ビジネスや日常生活でも「契約書」の存在は重要になります。


 ただ、そのような作業は、相手との関係をぎすぎすしたものにしがちであるし、やっていて気分のいいものではないかもしれません。和を好む日本人としては、なかなか難しいね。


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【最高裁】個人事業主でも「労働組合法上の労働者」と判決 [裁判]

気になる判例が出てたので、まずは新聞記事を以下に引用します。

asahi.gif住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主は「労働組合法上の労働者」に当たるか。劇場側と個人として出演契約を結ぶ音楽家の場合はどうか。二つの訴訟の判決で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、いずれも「労働者に当たる」との判断を示した。

 企業が外注化を進め、個人事業主が急増する中で、判決は個人として働く人の権利を重視し、組合をつくって団体交渉する道を開いた。IT技術者やバイク便のドライバー、ピアノ教室や塾の講師など形式的には独立した事業主でも、働き方の実態によって労働者と認める先例となりそうだ。

 うち一つの訴訟を起こしたのは住宅設備会社「INAX」(現リクシル)の子会社「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)。製品の修理などを一定の資格をもつ「カスタマーエンジニア」(CE)に委託してきた。

 CEでつくる労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前に協議することなどを同社に申し入れたが、拒否された。この対応を中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴した。

 第三小法廷は、IMTがCEの担当地域を割り振って日常的に業務を委託していたことや、CEは業務の依頼を事実上断れなかった点を重視。「時間、場所の拘束を受け、独自の営業活動を行う余裕もなかった」として労働者に当たると結論づけた。

 09年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認めたが、同年9月の二審・東京高裁判決は「業務の依頼を自由に断れ、いつ仕事をするかの裁量もあった」として労働者とは認めなかった。第三小法廷はこの二審判決を破棄し、IMT側敗訴の一審判決が確定した。IMTは今後、CE側との団体交渉に応じることになる。

 もう一つは新国立劇場(東京都渋谷区)のオペラ公演に出演する1年ごとの契約を結んでいた合唱団員をめぐる訴訟。ただし第三小法廷は、契約を更新しなかったことが不当労働行為かどうかをめぐり、審理を東京高裁に差し戻した。

 合唱団員の女性は1998年から5年間、毎年のオーディションに合格し、契約更新を続けた。しかし03年に不合格となり、女性が加入する労働組合が劇場側に団体交渉を申し入れたが、拒否された。
最高裁判所.jpg
 一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断したが、第三小法廷は「女性は公演に不可欠なメンバーとして劇場に組み入れられており、事実上、出演を拒めなかった」と判断した。

          ■              ■

法律の解釈には書かれている「文言」から素直に読み取れる意味を明らかにする「文理解釈」と
その法律が作られた目的・趣旨を探る解釈方法があります。

通常、裁判などの争訟となった場合、裁判所はその法律が作られて趣旨にまでさかのぼって問題の解決にあたろうとします。

今回問題となった「労働者」。
企業は個人と契約になった場合、よく「業務依託」契約を結びます。

これには労働基準法、労働組合法などの個人が労働者として持つであろう権利を排除しようという意図が隠されています。

「労働者」とされた場合、契約先に対しては組合を作って条件などを交渉することができることになります。

また「ストライキ権」も行使して、業務拒否を適法に行えます。

上の事例ではそれを企業側が阻むために「業務委託契約」としていたんだと思います。

しかし、その実態は個人に場所的時間的自由はなく、仕事についての裁量がかなり制約されていたようだ。
こうなると、個人で営業しているのか雇われているのか区別がつきにくいことになります。

こういう実質を捉えて最高裁判所は、これらの個人を「労働者」と認定したんだと思います。

ただし、今回認められたのは「労働組合法上の」労働者の権利だけ。
労働基準法上の権利については判断されていません。

しかし、ビジネス界では実質は雇用されているのに、会社との契約は「業務依託」という例はたくさんあります。

労働基準法上の権利が認められると、労働時間や休日に関する権利、給料や解雇制限についての権利が行使できることになります。

今後はこういう実態に踏み込んだ判例がでてくることを期待します。


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「敷金差し引き特約」に最高裁が初めて有効と判断 [裁判]

賃貸マンションの借り主に返還される敷金から、家主が無条件に一定額を差し引くと定めた賃貸借契約の特約(敷引特約)が消費者契約法に基づき無効かどうかが争われていました。

そして24日、この訴訟の判決で最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は「特約は原則として有効」とする初判断を示し、差し引かれた敷金の返還を求めた借り主側の上告を棄却して請求を棄却した1、2審判決が確定しました。

このいわゆる敷引特約は関西地方や福岡県などで慣習化しています。

同様な訴訟では地裁や高裁で特約を無効とする判断が相次いでいました。

この判決は「特約にはあらかじめ敷金から差し引く額を決めてトラブルを防止する意味があり、貸主の取得額が賃料などに比べて不当に高くなければ有効」と述べました。


この事件で消費者契約法のどの条項が論点となっていたか明らかになっていません。
たぶん第10条の「消費者の利益を一方的に害する」契約条項として無効を主張していると思われます。

原則的に契約は両当事者が公序良俗に反しない限り自由に取り決めることができます。
しかし、賃貸契約などはほぼ家主や仲介業者が一方的に相手方に提示され、その相手方はそれを承諾するか否かの自由しかありません。

この判決では、どの程度の不利さ加減からその契約が無効となるか有効のままかを争う限界事例だったんだと思います。

実際の判断は、その契約の家主の有利さ、または賃借人の不利さにどのような合理的な理由があるかを対象に繰り広げられます。

ただ「いくらくらい」という基準はあまり明確になりません。

具体的な事例の積み重ねが、「判例法」として形成されるんですね。



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