書評 「弱者」はなぜ救われないのか-貸金業法改正に見る政治の失敗 増原義剛著 [法令]

 著者の増原義剛氏は元大蔵官僚で、東海財務局長で退官した後、2000年から09年まで自民党の衆議院議員を務め、現在は広島経済大学で教鞭をとっている。代議士時代は、内閣府副大臣や財務金融委員会理事などのポストにつき、自民党金融調査会で改正資金業法の立法に携わった。

 『「弱者」はなぜ救われないのか』は、その経験をもとに、日本の政治がいかにポピュリズムに翻弄されているかを世に問うたもの。

「弱者」はなぜ救われないのか -貸金業法改正に見る政治の失敗

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とはいえ、本書を手に取った読者は、その穏当な表現に落胆するかもしれない。著者の経歴からすればスキャンダラスな告発本になるはずもなく、ポピュリズムを煽ったメディアや政治家が名指しで批判されているわけでもない。しかし政権の中枢にいた元政治家が、自らが立法に携わった法律を全否定するというのは、やはり“前代未聞”なことなのだ。

著者は自らの政治家時代を、次のように自己批判する。

改正当時の経緯を正直に申し上げると、改正貸金業法とはそのような(多重債務者保護とノンバンクの淘汰・撤退という規制強化の副作用の)比較衡量がほとんどなされずに導入が決められた法律であった。むしろ、規制の弊害を指摘することが社会的・政治的に許されない、ある種異常な雰囲気のなかで決められた法律であった。政治と政治家の限界があらわれた法律であったとも言える。

2003年6月、大阪・八尾市のJR関西線の踏切で、同市内の主婦(69歳)と清掃作業員の夫(61歳)、主婦の兄(81歳)の3人が電車にはねられて死亡した。
現場から主婦の遺書が見つかり、「荷物の整理をしながらも死にたくないという思いで涙が止まりません」などと記してあったことから、警察は借金の取立てを苦にした自殺と判断した。主婦はヤミ金から1万5000円を借り、その利子が雪だるま式に増えて、保証人となった夫や兄にまで取立てが及んだことから心中に追い込まれたのだ。

2006年には、取立ての電話録音がテレビなどで繰り返し放映された。「話を聞けよ! ジジイ!」「おら! この野郎! お前らなんて潰すのなんともねえんだよ!」「金融監督庁でも何でも行ってこい! 野球の監督でも連れてこい! バカタレッ!」というもので、多重債務者の相談業務を行なっていた弁護士たちが、消費者金融大手のアイフルを相手どって損害賠償請求訴訟を起こした。被害者弁護団は、アイフル社員か、もしくは依頼された関係者が違法な取立て(恐喝)を行なったと主張したのだ。

この訴訟も当時、大きく報道され、一審(熊本地裁)は「(電話をかけたのがアイフル)社員とは断定できないが依頼された人物が電話をかけた可能性は残る」として、損害賠償30万円、弁護士費用5万円の支払をアイフルに命じた。
しかし高裁では、それがアイフルの関係者から依頼されたものとは確定できないとの理由で一審判決が破棄され、2009年5月には最高裁で上告が不受理とされてアイフルの無実が確定している。当時、マスメディアはこぞってこの事件を取り上げ、消費者金融バッシングを行なっていたが、それはすべて虚報だったのだ。

著者も述べるように、冷静になってみれば、恐喝まがいの取立てで問題になったのはすべてヤミ金業者ばかりで、「脅迫テープ」に見られるような極端な取立ては消費者金融では見られなかった。

しかし、消費者金融の創業者が長者番付に名を連ねていることや、派手なテレビCMへの反発もあって、いつのまにかヤミ金と消費者金融を同一視することが当然とされるようになった。

こうしたメディアの論調に便乗するように、自民党の金融調査会では、「貸すも親切、貸さぬも親切」が合言葉となって、消費者金融に対する規制強化が声高に主張されはじめた。ヤミ金と消費者金融は別物であるという“正論”など通る余地はなく、上限金利の引き下げに加え、借り手の年収に応じて融資額を制限する「総量規制」が議論されるようになる。

ところで著者は、出資法の上限金利を引き下げたことによって貸金業者の廃業・撤退が促された一方で、大手業者による貸し込みが激しくなったことを指摘する。考えてみればこれは当たり前で、生き残った体力のある業者が低い金利でこれまでと同じ利益を維持しようとすれば、融資額を増やすほかはないのだ。

政治家が上限金利を引き下げたことで大手業者の寡占と貸し込みがもたらされ、その弊害に驚いてさらなる規制に乗り出す。マッチポンプとはこのことだ。

そもそも近代社会では、私的所有権や私的自治とならんで契約自由が原則で、公序良俗に反しないかぎり当事者同士でどのような契約をするのも自由だ。所得に応じて融資額の上限を決める「総量規制」はきわめて特殊な政策で、先進国では例がない。

金融庁は各国の貸金業制度を調査し、アメリカ、ドイツ、フランスでは上限金利は設定されているものの総量規制はなく、イギリスにいたっては上限金利規制すらないことを把握していた。イギリスでも過去に上限金利を導入する動きがあったが、消費者保護団体までもが、「(優良な借り手が)短期資金の融資が受けられなくなる恐れがある」と反対した。

日弁連は、高い金利で融資することが自殺の原因になっていると主張したが、だとしたらイギリスの自殺率(10万人あたり6.4人)が日本の自殺率(同25.8人)の4分の1しかないという事実を説明できない。
こうした客観的なデータはすべて不都合なものとして闇に葬られ、マスメディアでも一切報道されず、消費者金融を敵役とする勧善懲悪の図式がもてはやされた。

2006年に、全国信用情報センターは、大手消費者金融などの貸金利用者は約1200万人で、そのうち5社以上の消費者金融から融資を受ける「多重債務者」が230万人にのぼると発表した。だがこのデータは、多重債務者問題の深刻さとともに、消費者金融を利用する1200万人のうちおよそ1000万人(83%)は優良な借り手であることをも示している。
彼らは自らの意思で消費者金融から融資を受け、それを期限までに返済しているのだから、その自由な商行為に国家権力が介入する理由はどこにもない。

総量規制が完全施行される半年前の2009年12月に日本貸金協会の行なった調査では、利用者の5割が、「規制」対象となる年収の3分の1以上の借入者に該当していることが明らかになった。所得別では、年収300万円以下では利用者の73%、301万~500万円では43%、501万円~700万円では34%、701万円以上では29%が借入規制の対象になってしまう。

このように総量規制は、貧しいひとたちを合法的な無担保・無保証融資から締め出し、優良な利用者を法の保護のないヤミ金へと追い立ててしまうのだ。

1200万人のうち1000万人が正常な借り手だとすれば、総量規制はそのうち500万人の善良な利用者の犠牲のうえに成立する。著者が繰り返し述べるように、このような法律が正当化できるはずはない。

2006年1月、最高裁は「シティズ判決」で、それまで「グレーゾーン金利」での貸付を認めていた貸金業規正法の「見なし弁済規定」を実質的に否定した。これにより、すでに完済し終わっているケースも含めて過払い金返還請求が可能になり、弁護士や司法書士の「過払い金バブル」が起きたことはよく知られている。弁護士のなかには過払い金返還請求で巨額の利益をあげ、税務署に所得隠しや申告漏れを指摘される例も相次いだ。最高裁判決は弁護士に“特需”をもたらし、同時に司法制度の信用を失墜させたことになる。

著者のいうように、改正貸金業法の総量規制だけでなく、「借地借家法」や「モラトリアム法(金融円滑化法)」など、弱者保護を名目に導入され、市場の機能を破壊し、法の正義を歪め、結果的に弱者をより苦しめることになった“欠陥法律”はほかにもある。

だがこうした法律は、「弱者の仮面をかぶった既得権者」に利益をもたらし、わかりやすい勧善懲悪の話を求めるマスメディアがもてはやすから、改正や廃止はきわめて困難だ。

自らの政治家時代を振り返って、著者は日本の政治が「サイレントマジョリティ(声なき多数)」のためのものではなく、「ノイジーマイノリティ(声の大きな少数の既得権者)」によって動かされていることを慨嘆する。

リベラルなマスメディアは小泉政権(劇場型政治)や橋下・大阪維新の会(ハシズム)をポピュリズムと全否定するが、自らが市場を破壊し、法を歪め、社会的弱者により大きな困難を与えるポピュリストであることにはまったく自覚がない。

本書を一読すれば、ポピュリストがポピュリストを批判する日本の政治の寒々しい光景が見えてくるだろう。

「弱者」はなぜ救われないのか -貸金業法改正に見る政治の失敗




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ダウンロード刑罰化は一億総容疑者時代をもたらす? [法令]

違法ダウンロード刑事罰化を含む著作権法改正案が本日6月20日成立した。

当初、政府が提出した改正案には違法ダウンロードへの刑事罰導入は含まれていなかったが、音楽業界の要望を受けた自民・公明が6月15日、刑事罰を導入する修正案を議員立法により衆院委員会に提出し、これに民主も賛成して衆院で可決していた。

ダウンロード刑事罰化などは10月1日に施行される。

大事なことは何も決められない我が国の国会だが、我々の生活に多大な影響を与えるであろう本法案は、たった5日間でさっさと成立した。

自分は違法ファイルなんかダウンロードしないから関係ない、と思ってる方がいるとは思うが、この法案の成立により、事実上、ほぼすべてのインターネットユーザーを容疑者扱いすることが可能になった。

違法ダウンロードに刑事罰・著作権法改正で何が変わるか 壇弁護士に聞く - ITmedia ニュース



「 ――YouTubeやニコニコ動画では、動画を一時ファイルとして保存しながら再生する「プログレッシブダウンロード」という方式が採られています。これは問題ないのでしょうか。

壇弁護士 現時点では手元に確定した改正条文がないので断言できませんが、「ダウンロード違法化」の段階であれば手段に制限はなかったので、そのままであればYouTubeなどのプログレッシブダウンロードも規制対象になると思われます。」

「いちいち警察が立件することは手間的に難しいので、警察が“けしからん”と判断した場合にだけ立件することになる。しかも幇助(ほうじょ)と絡めると、処罰の範囲がものすごく広い。サーバ管理者も幇助の対象となりかねないため、1つのダウンロードにつき1つの幇助が成立すると、ものすごい数の幇助罪になる」


私的違法ダウンロード刑罰化を含む著作権改正法、参議院で審議 -INTERNET Watch

違法ダウンロードを刑罰化することで生じる影響について、市毛氏は「軽微な嫌疑をかけられただけで、PCを覗かれるのではないかという懸念がある」と説明。一方、久保利氏は「紙を1枚盗んでも窃盗であることに変わりはないが、ペナルティを課すだけの重要性があるかどうかについては検察官が起訴するかどうかのチェックをかけている。この種の案件だけチェックがかからないということはない」とした。

結局、警察や検察のさじ加減ひとつでどうにでもなるという結果を招くことになる。
夜中に自転車乗ってるだけで職質受けたことがある人も少なくないでしょうが、その際にスマフォをチェックされ、“合法ファイル”と立証できなければ(どうやって違法か合法か確認するのか検討もつきませんが)しょっぴかれるようなことがあるかもしれない。



今、特に若い世代は、YouTubeなどでコンテンツに接することが当たり前になっている。
それは、かつての若者がテレビやラジオからエアチェックしたりするのと同じ感覚だろう。
そういう行為が取り締まりの対象となり、違反すれば前科がつくとなれば、CD離れテレビ離れ以上に、音楽離れが起こってしまうのではないだろうか。将来の音楽ファンを育成しないどころか犯罪者扱いして、いったい何がしたいのか。

クリエイターの中には、最近のリスナーはモラルが無くなったという向きもあるが、もういい年のくりおねだって若い頃はテレビやFMでエアチェックした曲を聴きまくったり、レンタル屋で借りてマイMD作って聴きまくったりしてました。
友達とCDがやテープの貸し借りも行なってました。ダビングして返しました。若いころのそういう“感性を貯金”というのは、大人になってからも生活を豊かにするものではないのだろうか。

著作権法の第一条にはこうある。

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

我が国の著作権法は、“著作者等の権利の保護”ばかりに重きが置かれ、“文化的所産の公正な利用”や“文化の発展”がないがしろにされてる印象がある。

全ての日本国民のためになるはずの法律が、一部の権利者のためだけにどんどん捻じ曲げられてしまい、本来の目的を見失ってきている。




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労働契約法改正案を閣議決定  5年超で無期雇用に転換  [法令]

logo_mainichi_s.gif政府は23日、パートや契約社員など働く期間が決まっている有期契約労働者が、同じ職場で5年を超えて働いた場合、本人の希望に応じて期間を限定しない雇用に転換できる、とする労働契約法改正案を閣議決定した。

 労働者全体の2割以上を占める有期労働者の処遇改善と雇用安定化を図る。

 改正案では、契約の更新が繰り返されているなど「雇用が継続されると期待することに合理性が認められる場合」は、不当な雇い止めを防ぐため雇用の打ち切りを制限することも明記した。

      ◇                  ◇

この法律は簡単にいうと、

『5年以上おなじ企業で働く契約社員は、
希望すると、その企業の正社員になることができる。』というものです。


正社員になることができるのですから一見、契約社員にとっはて喜ばしいものに思えます。


ですが、企業からすれば、その契約社員を雇う気がなければ、4年11ヶ月で切ればいいだけのお話です。

 働く期間をあらかじめ定めた有期雇用に導入される新ルールは、会社側が一方的に労働契約の更新を拒否する「雇い止め」の防止が狙い。08年秋のリーマン・ショックで大量の有期雇用労働者が雇い止めに遭い、社宅を追われ路上生活を強いられる事例も相次いだ。

 その後もパートやアルバイト、派遣・契約社員など非正規雇用の労働者は増え続けている。国の10年の統計では1756万人で、有期雇用はその7割にあたる約1200万人とみられる。

 有期雇用は現在、原則3年が上限だが、会社は3年ごとに契約を更新しながら長期間働かせることができた。
 新ルールで無期雇用に転換されれば労働者は雇い止めの不安から解消されるものの、経営側の意向をくみ、会社を離れていた期間が6カ月以上あると、期間の積み上げがゼロに戻る規定(クーリング期間)が盛り込まれた。このため、5年を超える前での雇い止めを許す余地がある。

 さらに、無期雇用に転換しても、会社側は賃金や待遇などの条件を正社員並みに改善する必要はない。低賃金にあえぐ非正規雇用の現状を変えるには、今回の法改正だけでは不十分だということができる。


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法務省曰く「人権擁護法案は誤解されている」でも釈然としない付きまとう曖昧さ [法令]

法務省は、世間で物議を醸している人権擁護法案につき、誤解に基づく意見や問い合わせが多く寄せられたことを理由として、「新たな人権擁護機関の設置について」のQ&Aを発表した。その内容を紹介する。

人権擁護法案の概要

1 制定目的
我が国で起きている差別・虐待などの人権問題及び公権力による人権侵害に対処することが人権擁護法案の目的である。そのために、政府から独立性を有した新たな人権救済機関の設置が求められるとしている。

2 新たな人権救済機関
・今回設置が検討されている「人権委員会」は、政府からの独立性・中立公正さを制度的に担保された、国家行政組織法3条2項の「委員会」に分類される。
・人権委員会の委員長及び委員は、中立公正で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えた人物が任命されるが、その任命には国会の同意が必要となる。
・人権委員会の下には、人権擁護委員を置き、地域社会における人権擁護の推進を図るため、後述する「一般救済手続き」を行わせる。この人権擁護委員は、市町村長が推薦した者の中から人権委員会が選ぶ。

3 新たな人権救済機関に与えられる権限
(1)一般救済手続き
・人権侵害に関する諸々の問題について、相談に応ずる権限
・人権侵害による被害の救済又は予防に関する職務を行うために必要な調査(一般調査)を行う権限
・被害者等に対する助言、関係行政機関等への紹介、法律扶助に関するあっせんその他の援助を行う権限
・加害者等に対する説示、啓発その他の指導を行う権限
・被害者等と加害者等との関係の調整を行う権限

(2)特別救済手続き
一般国民、国又は地方公共団体の職員等の行う不当な差別的取扱い、虐待等、差別助長行為等に対しては、特別に以下の措置を行う権限が与えられている。
・事件の関係者に対する出頭要求・質問を行う権限
・当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の提出要求を行う権限
・当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所の立入検査を行う権限

人権擁護法案において指摘される問題点

・外国人が人権擁護委員になり、外国人集団が、人権擁護を名目に権力をふるう危険性がある。
・「人権侵害」の定義が曖昧であり、結果として、自由な言論が弾圧されるおそれがある。
・現状、委員会を抑止する為の機関・法律などが存在せず、なおかつ、人権委員の罷免手続もないため、人権委員会の権限が強大なものとなり、暴走するおそれがある。
・人権委員会、人権擁護委員の人選が不透明である。
・適正手続の保障の面で不安がある。
・人権委員会の行った誤った措置が原因で私人の名誉が傷つけられた場合に、名誉回復の手段がない。

※ なお、人権擁護法案は、かつて小泉内閣時にも審議が為されていたが、人権委の調査を拒否した場合に30万円以下の過料を科すとの制裁や、メディア規制の条項が盛り込まれていたために、言論弾圧などへの懸念から一度は廃案となった経緯がある。

法務省発表のQ&A

1 外国人が人権擁護委員となる可能性について
人権擁護委員の選定においては、候補者がその市町村議会の議員の選挙権を有する住民で、人格識見が高く、広く社会の実情に通じ、人権擁護について理解のある者であることが人権擁護委員法により定められている。したがって、外国人は推薦の対象者にはされていない。
※ ただし、外国人に地方参政権が認められたら、この限りではない。

2 「人権侵害」のあいまいさについて
救済手続の対象となる「人権侵害」については、「特定の人の人権を侵害する違法な行
為」、すなわち、憲法の人権規定に抵触する公権力による人権侵害のほか、私人間におい
ては、民法・刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為がこ
れに当たるものとされている。

このように、人権擁護法案における救済の対象は、司法手続においても違法と評価される行為であることが前提となっているので、「人権侵害」の定義が曖昧ということはない。

3 言論の自由の保護について
言論の自由は、憲法が保障する基本的人権の中でも最も尊重されるべきものの一つで
あり、新たな人権救済機関がそのような自由を侵害し国民の言論を弾圧するようなこと
があってはならないことは当然である。したがって、言論の自由が害されるおそれはない。

4 人権委員会の権限が強すぎるとの指摘について
新たな人権救済機関が行う調査は相手方の同意を得て行う任意の調査に限られ、家宅捜索や差押えをするということはない。したがって、令状なしにの家宅捜索や証拠差し押さえが人権委員会に認められているわけではない。
そもそも人権委員会は、人権侵害をした者を摘発又は処罰する機関ではなく、広く国民に人権についての理解を深めてもらうための機関である。



法務省のQ&Aを読むと、どうにも釈然としない思いにとらわれる。
どういった分野であれ、法律を作る際には、対立する2つ以上の利益(今回で言うと、「人権侵害の被害者の保護」と「国民の言論の自由」といったところか)をどのように調整するかに細心の注意が払われる。

どんなに「人権侵害の被害者の保護」を厚くすることが素晴らしいことでも、行き過ぎてしまえば、それに伴って失うものもあるからである。
そして、その失うものが国民にとって重大なものであればあるほど、前述の利益の調整は、より慎重に行われなければならない。

その意味で、今回の人権擁護法案によって、おびやかされるおそれのある「国民の言論の自由」は、民主主義国家の国民である我々日本人にとって、最大級に重要な事項である。神経質なほど慎重な利益調整を行っても、慎重過ぎることはないと言える。

それにも関わらず、今回の人権擁護法案においては、「制度」として国民の言論の自由がおびやかされないよう十分に調整された形跡は見られない。

例えば、人権委員の任命には国会の同意を必要としているものの、任命後の事後的なチェック機能は今のところ、何も設けられていない。
国民の言論の自由を侵害するおそれのある委員を監視する制度は何もないのである。

また、何をもって「人権侵害」とするかというデリケートな解釈を必要とする部分においても、委員による慎重な判断がなされるよう取り図った制度は何もない。

法務省の言う「民法・刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為」に該当するか否かは、本来、裁判官が長い時間をかけて、うんうん悩みながら判断する事項である。
このような、判断を誤るおそれの高い事項に対して、そういった制度が存在しないことは実は重大問題なのである。

法務省のQ&Aを見ても、「この条項はこういう解釈だから、皆さんが危惧していることは起きませんよ。大丈夫ですよ。」という気休めの域を出ないものである。解釈に頼るということは、日々の運用の中で、柔軟に曲げられるおそれがあるということである。

Q&Aのレトリックの中に、「○○はあってはならない」なので「△△が害される可能性はない」といった展開があるが、法律初学者でもわかる誤魔化しなのである。

本来、「○○であるべき」ことがそうならないから、法律は罰則をもって抑制しているのであり、
「人権擁護委員」に限ってそれは「ありえない」ということこそ、ありえない事象なのである。

こんな危うい説明を官僚がしなければならないのなら、また廃案にした方がよっぽどマシだと感じる今日この頃です。




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児童ポルノ撲滅対策の裏側 [法令]

 京都府議会の府民生活・厚生常任委員会は、児童ポルノの取得・所持を禁止し、違反した場合は廃棄命令を出すことを盛り込んだ条例案を可決した。
廃棄命令をつけた条例は全国初であり、成立する見通しである。

 本条例では、すでに法律として制定されている児童買春・ポルノ禁止法で規制されていない提供目的以外の単純所持を禁止している。本条例では、18歳未満の児童の全裸などが写った画像や映像を所持した場合は知事が廃棄命令を出し、従わない場合には30万以下の罰金が課される。

 児童ポルノを禁止し、児童を性犯罪から守る必要があることは間違いなく、異論はないといえる。また、児童ポルノ自体が性的志向として非難されており、このような条例に反対する意見も少なく、賛成案が通りやすいのも事実であろう。
 しかし、単純所持を罰する規定をもうけることには代償をともなう。全ての国民に冤罪や別件逮捕の危険がつきまとうことになるのである。
例えば、スパムメールで所持してしまった画像を気づかないでいた所持していた場合やHPを閲覧している場合にうちに児童ポルノ画像のあるHPに飛んでしまって、それが携帯電話やPCに残ってしまうことが十分ありうるのである。
 このような場合にも、逮捕につながってしまうケースも十分想定されうる。警察が別件逮捕をおこなおうとする場合にこのような手段が活用されることが想定される。痴漢冤罪事件が問題視されるようになって久しいが、この種の犯罪で逮捕されしまった場合、社会的に抹殺されかねない。問題が起こってからでは遅すぎるのである。
もっと議論を深め、児童ポルノの定義を厳格にしたり、逮捕をする場合に慎重にするような運用を決定した上で制定する必要があるのではないか。

 こういった条例が各地方公共団体で成立するとなると、法律の制定や、ひいては漫画やアニメなどの規制にも反映されていくおそれもある。
 さらには、この犯罪の対象となり、冤罪の危険をともなうのは男性である場合がほとんどであろうと思われるが、そこにも問題がありそうである。

タグ:児童ポルノ
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暴力団排除条例の施行 東京都10月1日から 着地点はどこに? [法令]

10月1日から東京都でも「暴力団排除条例」が施行される。

この条例は、都民の生活や経済活動から暴力団を排除するための条例で、暴力団の資金源を断つことが狙いである。
事業者が「暴力団の威力を利用する目的」や「暴力団の活動を助長する目的」で利益を供与する行為は禁止される。
威力の利用というのは、不動産業者が地上げのために暴力団やフロント企業を使うケースが想定される。また、活動の助長というのは、みかじめ料を払ったり、暴力団と知っていながら会合場所を提供するケースなどが想定されている。

この条例に違反した事業者は、暴力団との「密接交際者」として認定され、事業者名が公表される。また、懲役刑や罰金も用意されている。
他方、銀行などの金融機関は、取引先が暴力団であると判明した場合に契約を解除できる「暴力団排除条項」を用意している。そのため、事業者が密接交際者と認定されると、金融機関からの融資が停止されてしまう可能性が高い。このように、事業者にとって暴力団との交際は、事業の存続自体を危うくさせるリスクが高い。

このような条例は滋賀、岡山、埼玉はじめ全国各地で制定される傾向がある。
確かに「暴力団」を社会の敵として認識し、徹底的に排除するという趣旨は理解できる。

しかし、排除された彼らはいったいどこへ行くんだろうか?

「国外退去」?それともどっかの無人島にでも閉じ込める?
現代日本でそんなこともできるはずもなく、この条例の意図する着地点が私には見えてこない。

暴力団幹部ならそれぞれの行状に応じた刑事罰で社会から隔離できるだろう。
しかし圧倒的多数の構成員たちを、どう社会へ溶け込ませていくのかという道筋は何も示されないままではないのか。

社会の裏事情にもくわしいジャーナリスト、須田慎一郎さんのコラム「暴力団排除条例の完全施行で変質する暴力団組織」が指摘しているように、彼らの組織はよりアンダーグラウンドへもぐりこむことになる。

誰の異論もないほど高潔な目的をもった法律ほど、決定的な欠陥をもつという典型例にならなければと祈るのみである。



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