【交通事故損害賠償の知識】交通事故で労災は使えるか? [交通事故]

今回は、通勤途中や仕事中の交通事故で受傷をした際、労災が使えるというお話です。


通勤途中の事故で怪我をしても、加害者の加入する任意保険が治療費や休業損害を補填してくれるので労災は使えないとか、任意保険会社が補填をしてくれるのであれば届ける必要もないと思っていらっしゃる方が結構多くいらっしゃいます。


ところが、場合によっては労災の届けをしておくことで治療の打ち切りの心配がなくなったり、後遺障害認定で有利になったりすることもあります。

又、合法的に通常の120%増しで休業損害金を受け取る方法もあります。


本日は、交通事故受傷と労災のそのような点についてお話をしたいと思います。



かつて相談者から時々次のようなご質問を受けたことがあります。

「事故から5ヵ月経ったけど、通勤途中だったので労災が使えるらしいと聞いたので、今から届けを出すことは出来るのでしょうか?」


「業務中の事故なのですが、加害者の加入する保険会社が全部払うと言っているので、会社から労災は使えないと言われましたが本当ですか?」

この様なご質問ですが、基本的には通勤途上や就業中の負傷であれば労災に届ける事になっています。

ただ、会社の労務担当者の知識不足などから、労災の届けを出すと保険料が上がったり、監査に入られたりすると思い込み届けを出さない場合が多いようです。

しかし、本当はそのような事はありませんので、具体的に労災についてお話をしていきます。


労災は労災保険のことですが、正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。

労働者災害補償保険法が定められ、厚生労働省の管轄です。

労働者災害補償保険法の目的を条文で見てみましょう。


第1条 労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者

の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、

必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、

又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族

の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の

増進に寄与することを目的とする。




要約すると、雇用関係にある労働者が通勤途中や業務中に怪我したり死亡したりした時に支払われる保険です。


※交通事故の被害者で労災が認定される場合は、「第三者行為災害」です。



労災には以下のような給付があります。



◆ 療養(補償)給付

・療養の給付


業務災害又は通勤災害による傷病について、労災病院又は労災指定医療機関等で療養する場合



・療養の費用の支給


業務災害又は通勤災害による傷病について、労災病院又は労災指定医療機関以外の医療機関等で療養する場合




◆ 休業(補償)給付


業務災害又は通勤災害による傷病に係る療養のため労働することができず、賃金を受けられない日が4日以上に及ぶ場合




◆障害(補償)給付



・障害(補償)年金


業務災害又は通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った場合



・障害(補償)一時金


業務災害又は通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った場合



◆ 特別支給金


保険給付とは異なる支給金です。



支給金:休業特別支給金・障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金



通勤途中や業務中の交通事故で受傷した場合は「第三者行為災害」として労災が認定されます。



交通事故で労災認定された場合、労災から支払われる物としては、治療費、休業損害、交通費など通常加害者が加入している任意保険から支払われる項目と同じです。



ここで、交通事故の加害者が支払うべき損害を何故労災が支払うのか、それはおかしいと思った方もいらっしゃると思います。



加害者もしくは加害者加入の保険会社(自賠責・任意)が本来支払いをするべき加害者の不法行為による損害ですので、その損害を労災が支払う義務も責任も全くありません。



ですので、交通事故に限らず被災害者が自らの不注意で怪我をしたのではなく第三者(他人)の不法行為により怪我をさせられた場合を「第三者行為災害」といい、通常の労災と区別しています。



例えば、交通事故でなくても通勤途中に工事現場の資材が頭上に落ちてきて怪我をさせられた場合などは、労災でいったんすべての費用を立て替えて被災害者に支給をし、労災で立て替えた費用(損害)は最後にまとめて加害者に請求し回収します。



この根拠は、労働者災害補償保険法第12条の4(第三者の行為による事故)で以下のように法的に定めれれています。



労働者災害補償保険法第12条の4

(1)

政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた

場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、

保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。



ですので、本来は被害者が加害者に対して治療費や休業損害の請求権を所有していますが、労災を使用した場合は被害者の持っている請求権を労災が代位取得することになりますので、労災に求償権が発生します。



そこで、労災は被害者に立て替えて支払った損害を加害者に対して請求することが出来ます。



何だか複雑だなとお感じになったかもしれませんが、支払い面に関しては通常の任意保険会社でも労災でも同じと考える事が出来ます。



おそらく、被害者の方も治療費の支払いもなく休業損害をもらう事が出来ればどちらでも良いと思うのではないでしょうか。



しかし、実は被害者の治療継続に関して重大な違いがあり、そのことを知っていて対応するのとしないのでは、後から大きな差が出てくることをほとんどの方がご存知ありません。



通勤途上や就業中に交通事故で受傷した場合、社長や事務担当者が労災の届けを出したがらない傾向にあります。


社長や労務担当者が労災にしたくない理由としては、「事業所で労災を使用すると、労災の保険料が高くなる」という思い込みがあるからです。


これは、労災を使用しない事業所の労災保険料は割引になり、特例を含めると最大45%ほど保険料が安くなるという労災保険のメリット制に深い関係があります。


社長や労務担当者は労災保険料の支払いが増えることを考え、社員に労災を使用させたくありません。

※ 事業所の常時雇用人数や事業種類によってはメリット制が適応にならない
  場合もあります。



ただ、交通事故は第三者行為によるもので、負傷の責任は加害者で事業所の安全管理ではありませんので、労災を使用してもメリット制に影響はありません。

しかし、そのことを知らない社長や労務担当が労災の届けを嫌がっています。


ただ、、労災は被害者とって色々な面で有利ですので、その誤解を良く説明して労災届けを出してもらうようにしなくてはなりません。


特に、被害者にも過失がある場合や大きな怪我で長期間通院しなくてはならないような場合、会社が何と言おうと労災にしたほうが絶対に有利になります。


「会社が労災にしてくれないから仕方がない」などと諦めてはいけません。


最終的な損得は被害者のみに生じ会社には全く関係ありませんので、労災の届を頑張って出すようにして下さい。


ただ、軽微な事故で治療も数週間で終るような場合は、あえて煩雑な労災にすることもないとは考えています。



通勤途中や就業中の事故であれば基本的には労災ですが、その辺りは臨機応変にご判断いただければと思います。



ところで、労災の届けを出して欲しいと会社に言っても、なんとしても出してくれない場合はどうしたらよいでしょう。

しょうがないから諦めますか?

実は、労災の届けは被害者自身で出来ます。


雇用されている会社を管轄する労働基準監督署に行き、通勤中か業務中かを労基署の人に伝え書類をもらい、必要事項を記載して提出するだけです。


また、労基署でもらった書類の中で「療養給付たる療養の給付請求書」のみを直接医療機関に持っていけば、病院で労災扱いにしてくれますので、その他の書類を後日労基署に届けても問題ありません。



ただ、何だか面倒だなと思われる方も多いのではないでしょうか。



しかし、労災にするかしないかでは被害者の治療継続に関して重大な違いがあり、そのことを知っていて対応するのとしないのでは天と地の差が出ることがりますので、次のことを良くお考えになって下さい。



もし労災ではなく通常の事故の場合はどうでしょう。

治療費や休業損害は加害者の加入する任意保険会社から支払われますが、どちらも任意保険会社の立て替えによる内払で法的拘束のない支払いです。



ですので、任意保険会社が立替を中止する、いわゆる「治療の打ち切り」をした場合、最終的には被害者本人が立て替えて治療を継続するか、治療を中止するかどちらかの選択になってしまいます。



しかし、労災では治療費はいったん労災が全て立て替え、治療が終了してから任意保険会社に請求しますので、途中で治療を中止しなくてはならない好況にはなりません。



安心して納得のいく治療をする事が出来ます。



さらに、休業損害も治療費と同様に労災から支払われますので、任意保険会社による休業損害の払い渋りもありません。



この様なことを知っているのと知らないのでは、治療の継続や休業損害の支払いに大きく影響し被害者自身に直接損得として降りかかってきますので、是非、今回のお話をご理解いただき有効にご活用ください。




被害者の最大の武器は知識です。



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